はじめに、日常生活で発生する事故は様々な原因で発生しますが、皆様何を思い浮かべますか。実に身近なところでしかも一旦起こってしまうと大変厄介なのが今回のテーマである「転倒」です。転倒は、「尻もちをつく」「つまずき倒れる」「ベッドサイドや車椅子に座っていて滑り落ちる」など様々な発生状況がありますが全て転倒です。

これは老年症候群の一つとされ高齢者死亡原因の上位に位置します。転倒の発生は、生活活動を著しく低下させ寝たきりをつくる直接的原因と言われます。特に高齢者の身体には転倒しやすい理由がありますので是非ともお気を付け頂きたいところです。  

そこで今回は「転倒を防止するにはどうすればよいか?」をテーマに、そうした転倒事故についてお話をいたします。

*高齢者の転倒状況について

「病院や介護施設での転倒」総数の20%が一般家庭 40%が病院や施設

高齢者の骨折は発生部位に特徴があるのですが、中でも大腿骨頚部骨折は寝たきりになる原因として特に注意が必要です。その大腿骨頸部骨折の直接的な原因の約90% は転倒によって発生しています。大腿骨頸部は解剖学的にみても剪断力に弱い部位であって特に女性は加齢によって骨粗鬆症の発症頻度が高い事もあり注意が必要です。転倒の実態を把握し予防対策を行うことは最も有効なことであって強いては寝たきりの予防につながるのです。

*内因要因について

  • 加齢により身体の中では感覚、視覚、神経、筋骨格、バランス機能、高次神経系など多くの機能低下を起こします。身体に分布する感覚受容器(刺激を感じ取るセンサー)の数の減少はもとより、その感覚を脳に伝える速度も遅くなり、ここだけをとっても明らかに歩行やバランスに影響を及ぼします。
  •  一年間のうちに転倒の経験がある場合はない場合に比べて同年に再発率が高いと言われています。また、転倒の恐怖心によって安静時間が増える傾向にありより運動機能が低下し転倒のリスクが高まる転倒後遺症候群を招く事も少なくありません。
  • 関節痛、特に変形性膝関節痛は先に述べた「介護が必要になる原因の4位」に入る症状です。関節の疼痛やバランス感覚の低下によって転倒の危険は高まります。
  • 特に薬物ですが、降圧剤・血管拡張剤・睡眠導入剤・安定剤・消炎鎮痛剤などはふらつきやめまいを引き起こすと言われているので注意が必要です。

*外的要因について

私たちの体にはメカノレセプターというセンサーが働いていて関節の角度や動き、筋肉の収縮の情報を脳へ伝え転倒しないように体を制御しているのですが、加齢とともにそのセンサーの働きが低下します。歩行では足裏と地面との距離が1.7Cm程度であるに対し50代女性ではわずか2mmと言われます。地面のわずかな段差や摩擦抵抗の変化はセンサーが瞬時にキャッチし転倒を回避するのですが、高齢者の場合はセンサーの反応が遅くなっているため危険を回避する事出来ず転倒へつながるのです。

*今日からできる転倒の予防対策について

①自宅での転倒は、住環境を整備することで簡単に取り除けます。 

歩くとき障害になるものがあれば取り除き、足元が暗い所に照明をつけたり、段差に目印のテープを貼ったり、階段に手すりを付けるなど、できるところからバリアフリーにしていきます。

②加齢とともに現れる身体機能の低下は、トレーニングや日常活動のなかでの心がけで予防できます。

  • 片足立ち・・・左右各1分間を目標に立ちます。無理な方は、机に手をついたりして初めは10秒からはじめて1分を目標に少しずつ間隔を伸ばしていきます。机に手をつくのも両手からはじめて、慣れてきたら指先、片手と変えて下さい。1日合計3回行うとバランス感覚にも効果的です。
  • 爪先立ち・・・テーブルなどに手をついてお体が安定するのを確認し、ゆっくりと爪先立ちして下さい。数秒状態保持し、その後ゆっくりとかかとを下ろして下さい。爪先立ちが出来ない方は、かかとが軽く浮く程度でもかまいません。10回1セットを1日に3回行うと下腿部のムクミや冷え性にも効果があります。
  • スクワット・・・肩幅に足を広げて椅子に腰をかけるようにゆっくりと90度の角度を超えない範囲でお尻を下ろします。回数は5回くらい1日3回で効果があります。これが無理な方でつかまり立ちが出来る場合は、椅子に腰掛けてテーブルに手を置いた状態でゆっくり立ちゆっくり座る動作を繰り返して下さい。つかまり立ちも出来ない方は、手をついた状態で立ち上がるつもりで腰を浮かせるような動作をして下さい。
  • 膝伸展運動・・・椅子に深く腰をかけて上半身が安定するように手は椅子の側面などをしっかり持って下さい。お膝を90度の状態から0度にまでゆっくりと伸ばします。伸ばしきった状態で数秒保持し、またゆっくりと元の状態に戻して行きます。物足りない方は足首にオモリをつけたりゴムチューブを足に引っ掛けて行うと良いでしょう。お膝の痛い方は1セット10回を1日に3回行うと効果的です。

③自分の足のサイズよりも大きすぎたり逆に小さすぎる靴もよくありません。また、本来の足のサイズよりもむくみが原因でサイズが大きくなっている方は、そのサイズに合わせて靴を使用し、むくみが緩和したらそのサイズに合わせて靴を使い分けることが理想です。現場で多く見受けられることは、靴の踵を踏んでいる方やスリッパやサンダルを使用している方です。これは特に転倒のリスクが高まりますので少しだけとは考えず靴をきちんと使用されることをおすすめします。

④薬剤によっては眠気、ふらつき、注意力低下、めまいなどが現れることがあります。お薬手帳に書いてある副作用をもう一度確認し、もしこのような副作用に気づいたら、医師に相談してください。

*転倒予防の目標

転倒予防の目標は、高齢者の健康的な生活を損なう骨折を予防することであり、単純に転倒回数を減らせばよいのではありません。転倒を予防し、骨折を予防し、要介護や寝たきりを予防することが第一の目標です。

そして、その過程の中で培われた能力と自信と希望により、生きがいが生まれるのです。

一人ひとりの高齢者の健康と幸福、そして自己実現のためにこそ、転倒予防を積極的に 実践する必要がある、そう考えます。


鍼灸治療院 ナチュラルスタイル  院長 髙原和也